作家、演出家、前川知大の鈍ら(ナマクラ)な日々。時々切れ味の良い日も。かなり不定期更新。
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[小説] 「散歩する侵略者」 メディアファクトリーより発売中 [連載] ■週刊モーニング(不定期連載) 「リヴィングストン」 漫画:片岡人生 原作:前川知大
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前川知大          (まえかわともひろ)

  • Author:前川知大          (まえかわともひろ)
  • 海の生き物とキノコと豆、乾物が好きです。F1と料理が好きです。UMAや地獄の関係者も好きです。漬物だけは勘弁してください。
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「 2011年05月 」 の記事一覧
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2011.05.30 Mon
散歩する侵略者 東京公演終了
「散歩する侵略者」の東京公演が無事千秋楽を終えました。
ご来場の皆さまありがとうございました。

演劇というのはライブメディアなので、作品が現在をどう映しているか(自覚的にしろ無自覚にしろ)が問われるところがある。その現在には個人的から社会的なものまでグラデーションがあるが、今からは逃れられない。
新作は必然的に「とってだし」的になるので、どうしようもなく現在が織り込まれてしまうが、今回の戯曲(台本)は6年前の作品である。
6年前の自分なんて、ある意味他人である。
かなり早い時期に劇団員と集まり、作者が何を言おうとしていたのか、そしてこの戯曲が現在の何を映すのかを考えた。
自分で書いたのに本当に何が言いたいのか分からないところがあるから面白い。だからこそ演出家として戯曲に向き合えたのかもしれない。3年前の再演の時はそこまで出来なかった。

無自覚に書かれた言葉たちを全て自覚したかった。靄が晴れたように視界はクリアーになるが、問題や荒もよく見える。初演の時は初期衝動に溢れていて、その熱量で魔法がかかるが、そのようにはもう作れない。
よく見える、というのはある意味しらけるのだ。その上でどう新しい魔法をかけるのか。理解と解釈、そしてヴィジョンが必要だ。世の演出家にとっては当然の作業かもしれないが、私は演出するものはほぼ自分の戯曲だし、新作が多いのでそこまで客観的に戯曲と向かい合うことは出来てなかったと思う(もっと早く書き上げればいいだけだが)。

さてどうしようか。
と思っていたところに3.11の震災である。
戯曲というのは時代に試される。300年前の戯曲も、現在を映す鏡になるなら上演される。
そのように時代に鍛えられてきた戯曲だけがクラシックになりえるし、戯曲はそのように鍛えられるべきだ。
「散歩する~」はある夫婦の話だが、「危機感」についての話でもある。なので3.11後に読むと、セリフが全く違って聞こえてくる。その辺りを真正面から受け止めようと作り直したわけだが、結果的に戯曲としての完成度も上がったように思える。正に時代に鍛えられたわけだ。
「まさに今上演すべき作品だね」という感想も多かったから、方向性は間違ってなかったのだろう。

現実とリンクしているこの物語だが、内容は宇宙人侵略モノである。
リアリティやユーモアのバランスを間違うと、かなり陳腐なものになってしまう。
俳優の熱量のバランスも難しく、淡々とやると物語の迫力が出ないし、熱が強すぎるとヒーロー物みたいな若い芝居になってしまう。
足りなかったり溢れてしまったり、波のある三週間だった。

最後の週は立ち見で観てくれたお客さんも沢山いて、本当に有難かった。
縁があってライムスター宇多丸さん他タマフル(TBSラジオ・ライムスター宇多丸のウィークエンドシャッフル)クルーが観に来てくださって、番組でプッシュしてくれたのもあったと思う。個人的にすごく嬉しい。

さて、これから大阪公演と北九州公演だ。沢山のお客さんに観てもらいたいものである。



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2011.05.26 Thu
趣味はネット通販です。
パソコンとネットの話の続きだが、
次に買った二代目イライザはソーテックのデスクトップで、全く問題が無かった。まぁこの会社も無くなってしまったが。
で今の三代目イライザはDELLのノートだが、もう5年も使っているのでそろそろ買い替えだろう。
一度交換したHDDから時々香ばしい臭いがするし、異音もする。

去年からiPadを使っており、アップル製品の魅力に関心している。
で次は自宅PCをマックにしようと思っているのだが、それ聞いた友人の何人かは、私を非国民のように責めた。
PCとしての優位性云々の議論は今更で不毛だが、最終的に彼らからすると私は、
「いい気になっている」あるいは「モテようとしている」のである。
確かにiPadを使い始めた時、私はいい気になっていた。
こんな、こんなに、こんなことも、と嬉しそうに機能を解説していた気がする。
そんな「いい気」を感じた者はまた、「やれやれ」という態度を取る。
違うんだ、許してくれ。だって、だって楽しいんだもん。

さて、ちょうどソーテックの時代だろうか、演劇を始めたのと同じ頃、私はインターネット通販(主に書籍)の会社に勤めていた。
ネット通販は主にクレジットカード決済である。内側にいたぶんネット通販でカード情報を入力することに、私はほとんど抵抗がない。
事故があれば死活問題になるので、会社は個人情報の管理には最も力を入れる。企業として存続しようと思うなら、基本的に杜撰な管理はしない。
「あぶなくない?」
と言う人がいるが、それほど危なくはない。(ちゃんとした会社なら)

なので私は、その頃から何でもネットで買うようになった。
本、DVD、食材、贈り物、映画のチケット、家具。
毎週のように何かが届くのを見て、
「そんな色んなサイトにカード情報入力して大丈夫?」
と家人は言う。
欧米にくらべ、日本人はカードに対する信用が薄く、現金が一番というところがある。

「カレー粉なんて近所のスーパーで買えばいいじゃない」
「この店のブレンドは真似できん」
「危なくないの? いい気になってると、いつか大変なことが起きるよ」
と家人は不安げな顔をする。
それはまるで、呪術的なものへの怯えに似ている。
神社の鳥居に落書きしているヤンキーには有効かもしれんが、私ならこう答える。
「クレジットの意味を知っているか? 信用だ。何かあったら連中が責任を取る」

家人は言った。
「お前は何かにかぶれている」

ふん。貴様は昔の人か。

家人は私に、ネットでの買い物を減らすように要求してきた。
現金を使わないと、金銭感覚が狂うからだという。節約するのだ。
私は反論した。
「カードなら何に使ったかが全てリストになってくる、現金より明快だと思うが」
「後払いが良くない。未来の自分が常に金を持ってると断言できるか?」
「支払いがあるなら労働意欲も湧くだろう」
「気付かないのか? お前はカード会社にヤク中にされてるんだぞ」
「うるさい!」
「・・・」

それからも私はネット通販を止めることなく、今に至る。

そして、二週間前こと。
カード会社から電話があった。
「失礼ですが昨日の深夜2時、家電を購入しましたか? 12万円ほどの」
「・・・深夜に家電を購入する趣味はない。どういうことか?」
「えー、では○○というサイトで7万円のお買物は、どうでしょう?」
「記憶にないが」
「そうですか、どうやらお客様のカード情報が流出したようです」

おりしもソニーから一億件もの個人情報流出がニュースになっていた頃である。
私はソニーのオンラインサービスに登録していないから出所は違うが、まさか、である。

しかしこのように言って、カード情報を聞き出す詐欺かもしれんと思い、私は慎重に対応した。
自分から情報を言わず、確認した。が、やはりカード会社に間違いはないようだ。
結局、数日の使用状況を確認し、私でないものの支払いは当然しなくて良いことになった。
現行のカードは利用できなくなり、後日新しい番号のカードが送られてくることに。

しかしどこから流出したのか。
登録しているネット通販の会社は三十以上はある。どこに問題があったかなど私には調べようもない。
まさか私にこんなことが起きようとは。

さてここで、注目すべきは家人の対応であった。
私のカード情報流出&不正利用という事態に、
「ほれ見たことか」
「言わんこっちゃない」
「ネット通販は危険」
「いい気になってるからだ」
「バチが当たったのだ」
「神話は終わった」
と正に鬼の首を取ったかのようである。

ぐぐぐ。
いや、私はそれでもなお、問題無しと言えるだろう。
結局金銭的被害にはあってないわけだし、だって考えてみろ、電子マネーの時にも豪語したが、財布を落とした時と比べてみれば分かる、落とした財布に入っていた1万円が戻ってくるか?戻るはずない!だがカードは落としたとしても一円も損することはないのだ。不正利用があったとしても、それは不正利用であって、払う必要はないのだ。そのようなシステムになっているのだよカードは!
大体バチってなんだ。悪いことしてるわけじゃないのに何故バチが当たる?当ててるのは誰だ?現金の神様か?「現金の神様」だと?文字にして気付いたがなんて下品なんだ。俺はそんな奴の軍門には降らん!ネット通販万歳!
はぁはぁ・・・


私の流出事件から約10日後、ある小さなサイトからひっそりとメールが来ていた。

「不正アクセスによる個人情報流出の可能性についてのお詫びとご報告」

・・・お前か。
いや、許すよ。ぜんぜん。
被害なかったし。もう対策はしたし。
若干煩雑な手続きがあったのは確かだが。

メールの文面によると、不正アクセスがあったのは一ヶ月以上前だという。
ソニーは数日間の発表の遅れで、社の信用を大分損なったし、非難のポイントになっている。
この資質はどうやら日本人的らしく、原発事故の情報に関しても同じような問題が国際的に指摘されている。
一ヶ月後にひっそりメールしてきて許されるのはソニーの1/10000程度の件数であるからか。まぁ許されてはないのだろうけど。

「ニュースになるのは大きい会社だけで、実際こういうことって結構あるのかな?」
と家人は相変わらず心配している。

そうかもしれんが、問題が起きるのは人的なミスであって、ネット通販やクレジットカードというシステムが悪というわけではない。
昔から言われるが、科学技術というものは価値中立であり、善悪があるとしたらそれを扱う人間の側である、ということだ。
「私は今までと何ら変わることなく、ネット通販を利用するだろう」
と私は家人に宣言した。
「銃が無かったら殺人は減ると思うが、如何?」
「エコの為に車を廃止できるか?」

無限の議論に入りそうなので私は約束する。
ネット通販における、節約を。


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2011.05.07 Sat
これからはインターネットだ。
私がインターネットを始めたは97年だから、割と早い方だといえる。多くの人が興味を持ち始めた時期で、95年の流行語には「ネット」がランクインしている。
今言うとジョークにしかならないが、「これからはインターネットだ!」とやたら言われたのを覚えている。

では、と
「パソコンを買おうと思うが、良いものはあるかね? ちなみに金はない」
大学の同じ学部で、たまたま近所に住んでいた友人がパソコン好きだったので聞いてみた。
「家電メーカーのは高いから、自作が一番だ。後々カスタマイズもできるしな」
当時、大手家電メーカーのパソコンはエントリーモデルでも20~30万と、結構な値段がした。
秋葉原でパーツを買ってきて自作すれば10万以内に収まると言うが、まったくの素人が自作なんて無理だ。

「ではアキバとかにある自作専門ショップのオリジナルにしろ。同じスペックで、メーカー品の半額ほどで買える」
なるほど、それなら良さそうだ。
友人は早速数枚の広告を持ってきたが、その広告がなんか怪しい。

「なんか……裏ビデオのチラシみたいだ」
「裏ビデオのチラシと一緒にポストに入っていたチラシだ」
「え、マジで。そんなんでいいの? 信用できるのこの会社?」

昔はよく裏ビデオ通販のチラシがポストに入っていたのだ(ちなみに収集していた)。白黒印刷のかすれた感じやデザインの雑さでは、そのPCショップのチラシも似たようなものだった。

「心配するな。ショップはパーツを組み立てるだけで、マザーボードやCPU、メモリーなんかはホラ、メーカーが書いてあるだろ、出所が分かってるんだし問題ない。本体ケースも格好良くはないが、シンプルということもできる」
「でも組み立てる技術とか……」
「職人の世界じゃない。組み立てなんて知識さえあれば誰でもできるんだよ」
「え、じゃあ君できないの?」
「できん」
「知識ないの?」
「多少はあるが、体質的に静電気が強いので、向いてない」
「へぇ~」
「今アキバにはこの手のショップが乱立している。競争原理が働いているからクオリティは悪くないはずだ。それにこういう一見地味なショップの方が、意外といい仕事をするものだ」

そんな、地方のラーメン屋みたいな法則が当てはまるのか、と謎だったが、普通なら20万以上するスペックが8万という価格に引かれ、その店に行ってみることにした。

秋葉原の雑居ビルの一室、六畳くらいの狭い店だった。バラ売りPCパーツの山に埋もれるように受付カウンターがあった。店員は若く学生のようで、ここがPC同好会の部室といわれたらそう思っただろう。
「あのぉ、ください」

パーツの一つ一つを自分で選択できるのが、自作専門店のオリジナルPCの魅力らしい。でもAMDとインテル、どっちのCPUがいいかなんて私には分からない。各パーツに2、3の選択肢があるが、相性というのがあって、リストにある最高級のものを組み合わせても、それが最高のPCになるとは限らない。らしい。
スター選手を11人集めても、最強のサッカーチームにはならんのと同じことか。なんとなく分かる。分かるが、なおさら判断できん。
というわけで、店員さんにお任せした。

「予算10万で、具合の良いのを見繕ってくれたまえ」
注文した。納品は3週間後だ。

自宅に戻り、近所の友人にPCの構成表を見せる。
「ふむふむ。マザボは○○か、メモリーは、へぇ~、なるほど……これでえぇと、9万弱、うむ、中々いい買物をしたな」
「分かるのか?」
「だいたいな」
「……」
「ところでプロバイダーは決めたか?」
「いや」
「紹介しよう。俺も使っているが悪くない。ネットに繋げなきゃただの箱だ。直ぐにエロゲー専用マシンになる」
「エ、エロゲー?」
「貸してやる。あれはいいものだ」

ちょっと遅れて一月後、私の住む木造アパートにPCがやってきた。さっそく友人に電話する。
「来た! ヤツが来た!」
「ギャー、見たい! 今すぐ行く!」

友人に教えてもらいながら、PCにモニター、キーボード、マウスを繋ぐ。こういうのは自分でやらないと駄目なのだ。人にやってもらうと後々の愛着に影響する。
さて、色んな設定をしなくちゃいけないが、各パーツやソフトの説明書はほとんど英語で理解できないし、ショップのマニュアルがとにかく不親切。明らかに素人は対象にしていない。windows95の画面が出るまで3時間くらい格闘。ヘトヘトだ。

「うぅ、やっぱ俺にはちょっとキツいか、東芝やソニーにすれば良かった」
「負けるな。暴れ馬は最初は辛いが、乗りこなせば優勝だ。とりあえず今日はエロゲーでもして寝るんだな」
そう言って友人はCDロムを数枚置いて帰った。頼りになる男である。

ちょきんちょきん、がー、ぴー、べこんべこん……

と、数日後、なんとかネットも繋がり、やっとこさ私も電脳世界に参入である。
「やったー」
最初にしたことは、エロい画像を検索、そして例の友人へメール、である。
本質的には普段していることと変わらないが、方法が違うとこうも官能的か。これが新しい技術の楽しみだなぁと思う。
大学にも行かず、PCに向かう。
回線がとにかく遅いので、情報を消費する時間より待ち時間の方が多い。ダウンロードの時間を有効利用するため、ガンプラを作りながらネットサーフィンだ。なんて楽しいんだろう、インターネット。時間がどんどん過ぎる。

「どうだね。PCの具合は? 満足しているか?」
と友人が数週間後に。
「それが、最近ちょっと不安定なんだよ。来て見てくれよ」
フリーズしたり、勝手に落ちたり再起動することが増えてきたのだ。
「それに君が紹介してくれたプロバイダーだけど、最近繋がらないこと多くないかい?」
「うむ。安さゆえに加入者が急増して、サーバーの増設が間に合ってないらしい。でもあのプロバイダーを選んだ俺は先見の明があると思わんか?」
「それは分かったけど、参ったよ」

それからまた数週間、私のPCはますます不安定になった。起動しない日もあった。

「ところで前川君、名前を付けているか? ……なにってPCにだよ。だって君、バイクには名前を付けているじゃないか。PCだって同じだよ、相棒なんだ。名前を付けてあげないから、きっと怒っているんだよ彼女は」
「そうか……え、彼女? ちょっとやめてよ、勝手に性別決めないでくれる」

そんな魔術的な思考でPCが良くなるはずはないのだが、確かに調子の悪い時のバイクには、語りかけたりしてしまう。
故障の原因は愛情不足。確かに当時はアダルトチルドレンとかが流行っていたけど。

買ったショップは、アフターサービスが悪かった。電話で何度か対策を聞いたが、正直よく分からない。最終的にはマザーボードと何かの相性に問題があるのでは、ということだった。
えー、それが自分で判断できないからお店に頼んだんじゃないか。
「マザーボード変えるとなると、修理費込みで5万くらいかかりますね」
「ええっ、そんなぁ」

私はひどいひどいと友人に訴えた。
「まぁ自作PCってのはそういうリスクはあるよね。これはしょうがない。授業料と思って諦めるんだな」
私は別に自作PCのプロを目指しているわけではないし、授業なんて受けたくない。
「お、お前があんな、裏ビデオみたいなチラシ持ってくるからだ! うわーん!」
と私は泣きながら家を飛び出した。

ネットの世界に帰りたい。でも帰れない。PCが立ち上がらないから。
あ、起動した! おおお、windowsのロゴも出た、と思ったら勝手に再起動。そしてその繰り返し、起動しては再起動の無限ループ。
暴走だ。精神を病んでいる。私の愛情が足りなかったのか。

私はショップと交渉した。
さすがにそちらの落ち度もあるだろう。なんとか安く修理してくれないか。
ショップは対処方のマニュアルやCDロムを送ると言い、それでも駄目なら修理する、ということになった。マザーボードを変えるというのは極端な話で、原因を特定すればもう少し安く直せるらしい。

一週間ほど様子をみていた。
完全に初期化して、一応起動するようになっていたが、やはり不安定さは残る。
結局修理か。データを全て失ってまで初期化したのだがな。

そんな時、例の友人から電話が来た。
「テレビを見るんだ! 大変なことが!」
夕方のニュースでやっていたのは、地下鉄サリン事件(95年)を起こしたオウム真理教関連のニュースだった。

「教団の資金源となるパソコン店に強制捜査」

私が買った店だった。

友人、大爆笑である。
「ふふふ、サポートを求めたつもりが、サポートをしていたとはな、それもオウムの」
私は電話を切った。

母さんごめんなさい。金を借りてまで買ったパソコンでしたが、愚かな買い物でした。
そのショップに、もう電話は繋がらない。

後日、大学で友人が嬉しそうに、
「前川君のパソコン、オウムのだったんだって、かわいそうだよね」
と言っていた。
なかなかの男である。彼とは今も非常に仲がよい。

さて、問題のPCだが、自作PCが趣味の人を紹介してもらい、ビデオカードというのを交換したり、何やら色々してもらって、何とか復活した。修理費もパーツ代とわずかな謝礼だけでやってもらえ、非常に助かった。
普通にPCが使えることがこんなに嬉しいとは。二ヶ月ぶりにネットに繋がった。

それから数日後、妹の家に行く機会があった。
いきなり富士通のパソコン、FMVが目に入る。
こ、これは、眩しすぎる。
「どうしたのこれ?」
「なんか学校で買えっていうから」
「ちょっといじっていい?」

嗚呼、なんという安心感。
FMVのこの取っ付き易さと安心感が明るいファミリーレストランなら、私のマシンはまるで薄暗いぼったくりバーである。
妹よ、あの時の私の気持ちがお前に分かるか?

テーブルの上には雑誌の付録のようなシールシートが散らばっていた。何となしに手にとって見ていると、妹が言った。
「いる? キャンディキャンディのシール」
大小のシールに各キャラクターが収まっている。
「うん。じゃあもらう」
別にキャンディキャンディが好きなわけじゃなかったが、そこはかとなく悲しかったので、そうした。

私は家に帰り、自分のPCを見つめた。
クリーム色のタワー型の本体には、今は無きショップのエンブレムがはめ込まれている。その切手くらいの大きさのエンブレムが忌々しい。
私はキャンディキャンディのシールを一枚はがし、エンブレムの上に貼った。ぴったりだった。
シールの下には小さく「イライザ」と書いてある。へぇ、この女の子はイライザっていうのか。
名前か……
そうだ、このPCをイライザと名付けよう。
イライザ。いいじゃないか。イライザ。あ、やっぱり女の子なんだ。名前を付けたらなんだかこのPCを愛せそうな気がしてきたぞ。

「いくぞ、イライザ!」電源オン。

……かちかちかち、じー、ちきちきちき、ととと、ぶーん、……がちょんがちょん、ぴー……

やっぱりどこか不安定。でも大丈夫。イライザ頑張れ。

ふと思い立って妹に電話した。
「イライザって、どんなキャラなの?」
「すっごい意地悪」
……なんだ、ぴったりじゃないか。
「ありがとう」
そう言って電話を切った。

それから私は、気分屋でわがままなイライザを好きになったのだった。

つづく。

ちなみに今使っている三代目イライザの性格はとっても温厚、忍耐強い。10年経つと変わるもんだ。







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