作家、演出家、前川知大の鈍ら(ナマクラ)な日々。時々切れ味の良い日も。かなり不定期更新。
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[小説] 「散歩する侵略者」 メディアファクトリーより発売中 [連載] ■週刊モーニング(不定期連載) 「リヴィングストン」 漫画:片岡人生 原作:前川知大
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前川知大          (まえかわともひろ)

  • Author:前川知大          (まえかわともひろ)
  • 海の生き物とキノコと豆、乾物が好きです。F1と料理が好きです。UMAや地獄の関係者も好きです。漬物だけは勘弁してください。
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2007.08.03 Fri
行き倒れ
注意:まったくオチのない日記です。

昨夜の話。
夜中の3時半、仕事を切り上げ、寝る前にゴミを出すことにする。
45?袋を絞り上げ、エレベーターで降りる。
ゴミ置き場は自宅ビル前の歩道、入口から左10メートルほどの場所。
目印は何も無く、誰かがゴミを置いて初めてゴミ置き場の様を呈する。
ただの歩道なので、早い時間にゴミを出す時など、先客がいないと未だに気が引ける。

夜中の3時半なので朝は近い、人通りも少なく問題は無いだろう。
歩道へ出てゴミ置き場を見ると、白い袋が一つ置いてある。気が楽だ。
しかし近くに行ってみると、それはゴミ袋ではなかった。
人間だった。
白いYシャツに紺のスラックス、黒の革靴。
ゴミと言えなくもないが、明らかにクールビスの会社員。
白いゴミ袋に見えたのは、その肥満体を包んだYシャツだった。
歳は40代くらい。

うつ伏せに倒れ、靴は片方脱げている。
轢き逃げか?いや、血は流れていない。
大丈夫ですか?と声をかけると、「うん。うん。」
と寝言のようなことを言う。ただの酔っ払いにみえる。
起こそうと背中を触ると、寝汗でしっとりした。勘弁してほしい。
声をかけ体を揺すり、起こそうとしたが睡眠は深い。

おじさんが倒れている場所は右カーブのコーナー、膨らんでくるところだ。
二年前、ここで曲がりきれないバイクが歩道に突っ込みクラッシュしたのを目の当たりにしている。
しかもおじさんは歩道と車道の境目に倒れており、右手は切断してくれと言わんばかりに車道に投げ出されている。
ビル前の車道は四六時中車通りは少なくない。
自宅前でひき肉になられても困るので、とりあえず歩道側にゴロリと転がした。
かなりファットなため、結構な重労働だ。
おじさんはそれでも起きない。昏睡なんじゃないかと心配になった。
脱げた片方の靴がなくならないように、靴をおじさんのお腹に乗せてみた。
車道側へのストッパーとして、私の持ってきた生ゴミを置いた。
絵面的にどうしょうもない感じになって結構満足だ。

しかしやっぱり危険。
面倒くさいなぁと思いつつ、そこから100メートルほどにある交番に行く。
警官は不在だった。ここの交番は肝心な時にいつも居ない。
備え付けの電話をかける。
「家の前に男が倒れているので回収して欲しい」
と告げると、「酔っ払いでしょう?」ときた。
「おそらく酔っ払いですが、場所が危険です」
と言うと、「警官を向かわせます」とだるそうに答えた。

私はビルの5階、自宅に戻り、窓からおじさんを観察し続けた。
何人か通りすぎたが、皆無視している。
道で倒れている男はそんなに珍しくないのだろうか。
5分経ったが警察は来ない。
通りかかった男がおじさんを見ている。
しかし声をかける様子はない、どうやら持ち物を確認しているようだ。
無防備なおじさんの財布を狙っているのだろうか。
おじさんピンチ。
そんなことを思いつかなかった私は善良だなぁとしみじみ思う。
幸い男は何も盗らず、立ち去った。
警察はまだ来ない。このままじゃおじさんが身包みはがされるのも時間の問題じゃないか。
もし誰かに身包みはがされるなら、私がはがした方がまだ良いのではないか、
私にはその権利があるのではないか。と思い、今から追いはぎしようと思ったが、
そこに警察が来たら良く分かんないことになるなと思い、踏みとどまった。

アイスカフェオレを作り、煙草に火をつけて窓際に戻ると、
まーだ警察は来ていなかった。もう10分も経つのに!
もし酔っ払いじゃなくて脳内出血とかだったらどーすんだ。
私も「酔っ払いかも」的なこと言ったことを後悔した。
そんな素人判断はすべきじゃなかったし、警察も私の言うことなんて信じちゃ駄目だ。

ああ、もしおじさんが死んだらどうしよう。
その時、おじさんが動いた。あ、起きるのか?起きるのか?
駄目だ、まだ起きなくていい。今から警察来るから。
俺はお前が警察に叩き起こされて、何かモメた感じになるのが見たいんだから。

寝返りだった。
ふー、ここで自力で帰られても面白くないじゃないか。
おじさんは仰向けになった。枕もなく、太っているので睡眠時無呼吸症候群が心配である。
15分以上経っても警察は来ない。15分も見続けてる私も私だが。
来なそうだな。警察って適当だなー。
来なかったことを後悔させる為に、おじさんを殺そうかなと思った。
でもそれって第一発見者を装った犯人みたくなるかな。
殺す前に通報してるのが今回のミソだな。
そんなことを考えてると、カップルが近付いてきた。
5メートルほど前で女子がビクっとなって笑った。
二人はおじさんを起こそうとする。
男子はおじさんを揺すっているが、やはり反応なし。
次に女子が声をかけると、実にあっさりと意識を取り戻した。
やっぱ女子か。

おじさんは立ち上がり、ハイテンションで体操を始め復活。
「気をつけてくださいねー」とカップルに見送られ、フラフラと歩き出した。

警察はついに来なかった。
時刻は4時を回っていた。
妙な敗北感だった。
おじさんはカップルに助けられ、警察は来なかった。
結果的にこの件に関して、私は存在していないことになった。
この件の主人公と思っていたのに。
もし私はこの窓からゴミ置き場に飛び降りて、おじさんの位置に納まったら、警察は後悔するだろうか。
好奇心から事件を望んでいた私自身が最終的に事件を作りあげるような。

あまりにも虚しくなったので、寝た。






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