作家、演出家、前川知大の鈍ら(ナマクラ)な日々。時々切れ味の良い日も。かなり不定期更新。
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前川知大          (まえかわともひろ)

  • Author:前川知大          (まえかわともひろ)
  • 海の生き物とキノコと豆、乾物が好きです。F1と料理が好きです。UMAや地獄の関係者も好きです。漬物だけは勘弁してください。
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2009.02.08 Sun
餃子の皮と孤独
「あそこの餃子、皮が薄くて美味しいんだよね」
と家人が言うので、
「そこの餃子が美味いかどうかは食べてないので判断しかねるが、そこの餃子が美味い理由が果たして皮の薄さによるものかは、疑わしいと思うよ」
と答えた。
「パリっとして、中はジューシーで、美味しいよ。それに皮にこだわりがあるようなことをメニューに書いてあったし、雑誌でも取り上げられたみたい」
とまた言うので、
「僕は餃子ウォッチャーではないので確かなことは言えないが、世の中には餃子の皮は厚いより薄いほうが、上級であるような、そんな風潮があるよね。でもそれは事実かな。「こだわり感」を出すために、あえて皮の薄さをアピールしてるだけじゃないかな。大した特徴でもないのに、それをあえて「ウリ」にして「当店はこだわっています」という、その手の張り紙を店内に張ってある店に、僕はどうも如何わしいものを感じるんだ。事実その「こだわり感」がある種の調味料になって、言われなければどうってことない特徴を、美味しさの理由のように、感じてしまうんだ僕らは。でも僕は騙されないぞ。そもそも雑誌に取り上げられたことがその店の味を保障するように思ってるんだとしたら、浅はかじゃないかい」
と、食べてもいない餃子を批判したものだから、餃子の皮ごときで喧嘩になってしまった。

私は、餃子の皮は、モチモチと厚いほうが好みである。だから執拗に薄皮を標榜する(してないのかもしれないが)、その見たこともない餃子屋を非難したくなったのかもしれない。
大学生の頃、学校の近くにあった中華屋の餃子が未だに最高であると信じている。モチモチ皮でニンニクのきいた餃子だった。そこは自分の店の餃子にうんちくを付けたりせず、メニューの端っこにただ、餃子…250円、と控えめに記しているだけである。

「ところでその、キミがありがたがっている薄皮の餃子はいくらするんだい?」
「600円」
「一皿?」
「うん。5個で」

冗談じゃない。皮が薄いうえに600円。一つ120円!ふざけるな!どんな秘密があるってんだ、そんな薄皮ビリビリに破いてやる。
何?鉄鍋で焼いている?それがどうした?確かに鉄鍋で調理することによって皮のパリパリ感を最大限引き出すことができるかもしれないし、鉄鍋は効率よく不足しがちな鉄分を補給することもできる。鉄鍋のあの質感も私は大好きだ。だが、駄目だ、とても納得できない。いくら美味かったとしても、限界があるだろう。餃子の、料理としてもポテンシャルはそれほど高くないはずだ。
いや、サイズが大きいのかもしれない。普通の大きさの倍あるのかもしれない。個数で判断はできない。でも待てよ、大きいのだとしたら、薄皮じゃあ強度を保てないだろう。昆虫の大きさの限界は、外骨格だからだ。脊椎動物のように内側から自重を支える背骨がない昆虫は、外側の殻で身体を支えている。もし10メートルの昆虫がいたとしても、殻がその重さに耐えられずつぶれてしまう。餃子がつぶれることはないにしても、巨大な薄皮餃子は調理段階で扱うことが困難になる脆さを抱えてしまうはずだ。

「その餃子、まさか骨があるのでは?」
と聞こうと思ったがやめた。それはもはや餃子ではない。思い過ごしだ。
「大きさは? 大きいのなら勘弁してやらないでもない」
「普通。それに食べてもないアナタに勘弁してもらう筋合いもない」
と家人は言った。
確かにその通りだ。

「キミから得た情報を元にその餃子を判断するに、悪いけど絶対に食べたくないね。はっきり言っていい気になってる感じがするよ。薄皮だかなんだかしらないが、増長しているよ。鼻持ちならない。餃子は中華屋のサイドメニューで意外な実力を発揮することはあっても、餃子専門店なんかで主役の座にあぐらをかくべきじゃない。餃子専門店なんてこの世からなくなってしまえばいいんだ」

「もう二度とアナタと餃子を食べることはないでしょう」
と家人は言った。
…そうか。まあ、いいさ。ふん。
一人で食べるさ。別に餃子が嫌いなわけじゃない。むしろ大好きだ。餃子の名誉のために繰り返すが、私は餃子が大好きだ。ポテンシャルがどうだと言ったのは、それは餃子というものが、誰が作ってもそこそこ美味しくできるものだからだ。どんな店でも家庭でも、素材を厳選してもしなくても、そこそこ美味しくできる餃子はそれゆえに飛びぬけて別次元の美味しさに変わることは稀だ。それゆえに愛されている。レースカーはセッティングが難しく、とても速いが壊れやすい。市販車はセッティング済みで大して速くはないが、壊れず長持ちする。餃子という料理はどう頑張っても市販車のポジションにあると思う。日本のカレーも同じだ。いいじゃないかそれで。

後日、私は例の餃子店の前を通りかかった。相変わらず雑誌のコピーなどが店頭に張り出してある。
「ふん。なにを喜んでいやがる」
と悪態を付きつつ通り過ぎようとすると、無数の張り紙の中に意外な文字を見つけた。

「厚皮もあります」

自信があるなら薄皮だけでいけばよろしい。根性無しが。多様なニーズに応えようというわけか。だったた最初からこだわり感なんて出すんじゃない。
と思いつつ、私は立ち止まる。銀杏の木の下で二分考えた私は、踵を返しその店のドアを引いた。
いらっしゃいませ!という元気のよい声と共に、笑顔が私の目に飛び込んできた。
その店は清潔で温かく、いい匂いがした。

薄皮と厚皮の餃子を交互にほお張りつつ、私は自分を愚かだと思った。
この餃子を一人で食べることしかできないなんて。





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日記    Comment(1)   TrackBack(0)   Top↑

Comment
Posted by yashima
餃子の皮は外骨格なんですね。なるほど。

ぜひこれを読んでみてください。
腹を立てるか膝を叩くかのどっちかです。
http://www.amazon.co.jp/美味しい料理の哲学-シリーズ・道徳の系譜-廣瀬-純/dp/4309243533
2009.02.16 Mon 18:13 URL [ Edit ]

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