作家、演出家、前川知大の鈍ら(ナマクラ)な日々。時々切れ味の良い日も。かなり不定期更新。
日記 | ニュース | 演劇関係 | 宣伝・告知 | 趣味 | 未分類 | 
前川知大仕事状況
sanpobook01.jpg
[小説] 「散歩する侵略者」 メディアファクトリーより発売中 [連載] ■週刊モーニング(不定期連載) 「リヴィングストン」 漫画:片岡人生 原作:前川知大
リンク
ブログ内検索
月別アーカイブ
RSSフィード
鈍ラ・エクスペリエンス
≪2017.03  1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30  2017.05≫
プロフィール

前川知大          (まえかわともひろ)

  • Author:前川知大          (まえかわともひろ)
  • 海の生き物とキノコと豆、乾物が好きです。F1と料理が好きです。UMAや地獄の関係者も好きです。漬物だけは勘弁してください。
最近の記事
カテゴリー
最近のコメント
--.--.-- --
スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

スポンサー広告    Top↑

2010.02.28 Sun
姿無き挑戦者
朝、気持ちよく歯を磨いていると戸外で「ッキャー!」と悲鳴がする。
外に郵便物を取りに行った家人が叫んでいるのである。
慌てて玄関ドアから半身を乗り出すと、家人の顔が恐怖で青ざめている。私はただならぬ気配を感じた。
「何があった? 敵襲か?」
家人はこっちへ来てみろと顎をしゃくる。私は歯ブラシをくわえたまま傍へ行き、その視線を追う。視線の先、我が家の玄関ドアから壁に沿って約2メートルの位置に、そいつはいた。
みんな大好き、そう、ウンコである。
(ここから連呼しますので食事中なら注意)
思わず悲鳴を上げてしまうのも頷けるほど立派、いや巨大な、その直径は成人男子の手首ほどあろうか、長さは20センチ+余韻が数個、水分は少なく硬質な艶有りブラック、とにかく、サイズも場所も非常識、こんなことはあってはならない。
私はその威容に目を見張り、思わず口の中の歯磨きブクブクをゴクリとやってしまった。オェ。
人糞だろうか/まさかな/ペットか/だとしてもこのサイズ/チワワから出てくるとは思えん/UMAの可能性も……などとそのbig oneを前に憶測する。
我が家は小さなマンションの1階角部屋。マンション敷地内には基本的に住人しか入って来ない造りになっている。ペットも不可だ。
むぅ……。

ペットの散歩に他人のマンション敷地内に入るだろうか。そして犬が突如もよおしたとしても、人さまの玄関前でさせるか? しかも放置。そんなことは許されないはずだ。いや、これほど立派なものが出たら、すぐにビニール袋に詰めず眺めてみたくなるのも分らんでもない。そして見ているうちにこの喜びを誰かと共有したくなり、本人的にはちょっとしたプレゼント気分でこのGreat Bigoneを据え置いたのかもしれない。例えば独りご飯でさっと作った料理がやけに美味く出来て「ああこれ、誰かに食べさせてあげたい」と思うのと同じだ。だとしたら共感はできる、そして事実私はその見事なモノに関心すらした。その点において「ありがとう」と礼を言っても構わない。なんなら言おう、ありがとう、だが、駄目だ! やっちゃいけない!

「そんな人いないと思う」と言う家人。
「分ってる、分ってるんだそんなこと。だがよく考えてみろ、恐ろしくないか? これは始まりなんだ。恐ろしいだろ? だからオレはこれが誰かの善意であると思いたいんだ」
「意味が分らない。野良犬でしょ」
「野良犬だと? 最後に野良犬を見たのはいつだ? 保健所は頑張ってる。それにこのウンコのサイズからするとかなりの大型犬だろうし、そんな大型犬が野良のまま放っておかれるとは思えない」
「じゃあ野良猫」
「サイズの話をしてる。このウンコに比例する猫はもはや猫じゃない。虎かライオンだ」
「ウンコと体長が比例するとは限らない」
「なるほど、じゃあペット屋に行って聞いてみるか? 体の割に巨大なウンコをする犬が欲しいんだけど。オレが店員ならこう答える、そんなクソ製造機は置いてない」
「……とにかく掃除してください」

掃除なんてするものか。私だって軒先に巨大なクソのモニュメントを飾るほど物数寄じゃないし、とっくに肛門期は卒業している、だが、これは証拠品なのだ、まだ撤去はできない。

「認めるしかあるまい。これは始まりなんだ」
「なんの?」
「戦いだよ。どう考えたってこれは我が家に対する挑戦だ!」
「誰も挑戦なんかしてないって」
「普通に考えて有り得ないだろう? 誰かが意図的にここに巨大便を置いた、あるいはした。こいつをしたのが人か犬か、純粋なるクソ製造機なのかはもはや問題じゃない。誰かがオレ達に挑戦している、これだけは揺るぎない事実だ! 目を覚ませ、現実を見るんだ! 世の中が悪意で満ち満ちているのを受け入れるんだ!」
「……貴方は可哀想な人です」
「……平和ボケめ。こうやってオレ達が記念碑的大便の前で悶着してるのを奴はきっとどこかで見ている。あのマンションの屋上。いやあのビルかもしれない。嘲笑ってるんだ」
私は空に向かって「出てこい! いい度胸だ、ぶっ殺してやる!」と叫ぼうとしたが止めた。朝に大声を出すのは近所に迷惑だからだ。 
「いいから片づけて」
「いいや片づけない。オレは屈しない。こういうのは一度折れたらお終いなんだ、次はウサギの死体、猫の死体とエスカレート、しまいには無人トラックが突っ込んでくるんだ、決まってる」

私はデジカメを取りに部屋に戻った。家人は私が大便を撮影している姿をマンションの住人に見られるのではないかとそわそわしていたが、幸い誰も通らなかった。
確かに馬鹿げた行動に思えるかもしれない。だがもし今後嫌がらせが続くなら、最初のブツとしてこれは大事な証拠写真だ。後になって「最初はウンコが置いてあったんですよ」とか警察に主張しても、一笑に付されるかもしれないのだ。「いや本当に巨大なウンコが!」とか一生懸命になればなるほど、冷笑が返ってくるのだ。私はウンコを5枚、カメラに収めた。

さて……。私はコーヒーを注ぎ、考えた。考えたが、いい案は浮かばなかった。テレビをつけるとオリンピックのスケートをやっていた。見ていると、あの黒黒としたBigoneがスケートリンク上にあることを想像した。もしスケート靴で踏んだら、大変なことになるだろう。競技は中止になるだろう。でも冬季オリンピックでまだよかった。気温が高いと新たな問題が浮上するのは明白だからだ。カーリングをじっと見ていると、何だかとても時間を無駄にしているような気がしてしまう。でもそんなことを言うと頑張ってる選手に失礼なので言うべきじゃない。
家人は私がウンコについて話すを嫌がったので、私は黙ってテレビを見ていたのだ。
道路に落ちている靴の片方を見るたびに、不思議な感覚に襲われる。こんなところでなぜ靴を脱いだのだろう。脱げたとしても気付かないとは思えないし、交通事故の遺留品がぞんざいに扱われるはずはない。大きな幹線道路に靴は不釣り合いなのだ。人を放れた靴というのは玄関や土間か、靴屋にあるのが当たり前で落ち着く。すべてのものには相応しい居場所があるのだ。それを間違うと急に現実感が揺らぐ。箸箱の中にボールペンが入っていたり、冷蔵庫の一段が文庫本コーナーになっていたりすると、頭がくらくらする。
私はスケートリンク、カーリングの同心円の中心、ハーフパイプのパイプの切れ目、スキーのジャンプの着地点、あらゆるところにあのウンコがあることを想像した。どれも激しく不釣り合いで落ち着かない、反社会的な感じすらする。
そう思うと、我が家の玄関前にアレがあるのは、まだマシな方と言えるかもしれない。いや、違うな、そんな考えは駄目だ。まぁとにかく、せっかくの冬季五輪が台無しにされなくて良かった。
家人はいつの間にか仕事に行ったようだ。気がつかなかった。一言言ってくれればいいのに。
もう午後になっていた。ウンコに翻弄された午前中であった。私は気を取り直し、机に向かって仕事を始めた。
そして夕方になって、想像しなかったわけではないが、二次災害となった。マンションに住む小学生がウンコを発見したのだ。小学生男子は例外なくウンコが大好きだ。

祭が始まった。
狂喜乱舞である。ギャッギャッ!グルッグルルッ!キリキリキリッ!と聞き取り不能の言語らしき音が飛び交う。悪魔崇拝者のデモが我が家に押し掛けたかのようで、私は部屋の隅で息を殺して耐えた。10分ほどでサバトは終わり、私は怖々とドアに手をかけた。
辺りに誰もいないことを確かめ、ウンコを確認しにいく。
果たしてウンコは、壮絶なことになっていた。
パックジュース付属のストロー、小枝、チラシを丸めたものなどが、容赦なく彼に突き刺さっていた。どこか生け花のようにも見えるが、前衛的すぎる。あんまりだ。
我が家のモニュメントは侮辱された。いや、そのモニュメントこそが我が家を侮辱していたのだから、これでいいのか。いや良いわけがない。
自分の手で殺そうと思っていた仇が、あっけなく他人に殺されてしまったかのような、行き場のない思いが私の中で霧のように立ちこめ、まるで自分がBigoneを気に入っていたかのような錯覚を抱いてしまった。違う。そんなはずはない。自宅の前にウンコを飾って喜んでいるような男は、正直キツい。

それでも私は奇妙な喪失感でその場に立ち尽くしていた。すると小学生の親らしき女性が子供と一緒に近付いてきた。子供は「ほらそこそこ」などと言って笑っている。
親に話したのだろう。「巨大なウンコをメチャクチャにしてやったんだ」
奥さんはきまり悪そうに「すいません、なんか」と言って謝る。

私は「ああ、これですか。ひどいもんです」と、妙に落ちついて言えた。
奥さんはブツを見る。
「うわ~。ひどいですよね、ほんとに。あ、これ、アレしましょうか、このままもね、ちょっとアレなんで。…いいですよね?」
「あ、はい」
なんか私がウンコの所有者のような感じになってるが、まぁいいか。「いや、これはこのままで」とか言ったら確実に変態クソ野郎と思われるしな。
私は「新聞紙とか持ってきましょうか?」と言った後、「ていうか、ウチの前ですし、僕が始末しておきます」と言いなおした。出どころ不明のクソの世話を女性にさせるのも、と思ったのだ。我が家の前なんだし。
「でもこんなにしちゃったわけだし」と奥さん。
「でもほら、ちょっとシュールな感じになってこれもなかなか、ええ」
「あぁ…」
奥さんは乗ってこなかった。ハズした空気がクソの周りに漂った。息子の小学生がニヤニヤしている。クソを指差し、「食え」と言ってやりたかったが止めた。
一緒にクソの始末をしてくれるかと思ったら、奥さんは「じゃあ、すいません」と言って帰った。このマンションはクソの住処か?

私は再び呆然としている。格好つけるんじゃなかった。独りでは無理だけど、二人ならできることってあるだろう。やっぱり嫌だ、ストローが刺さった巨大ウンコを独りで片づけるなんて。耐えられない。
私はさっきの奥さんの部屋に押しかけ「僕と一緒にウンコを片づけてください!」と言おうと思ったが止めた。変化球のプロポーズと思われても困るし。
始末すると言ったものの、私は結局ウンコを放置した。自分が情けなかった。あの奥さんは我が家の前を通りかかり、そのままになっているのに気づくだろう。そしてウンコの巨大さに心折れやがったと、私を蔑むんだ。ケツもふけない青二才がって。

マンションの入り口は2か所あって、1か所は確実にウチの前を通る。誰もがその異様なモニュメントに気がつくだろう。「きゃあ」という声の後に、笑い声が響いた。カップルが笑っている。すごいことになってる巨大ウンコを笑ってるわけだが、私には自分が笑われているように思える。事実そうなのかもしれない。いきなり窓をガラッと開けて「笑ってんじゃねーよ!」と叫ぼうと思ったが止めた。ウンコを擁護していると勘違いされてしまうからだ。

私の心は磨り減り、一日持たずに敗北した。掃除をすればいいだけなのに、どうしても体が動かなかった。部屋の中にいるとモノは見えないし臭いも感じないからだろう。問題を先送りにすると取り返しのつかないことになるという教訓を学んだ。私は早早と布団にもぐり、頭を抱えて寝てしまった。
翌朝、ウンコは消えていた。誰かが掃除をしてくれたようだ。住人として耐えられなかったのだろう。申し訳ないことをした。
今のところ、挑戦者は第二の攻撃はしてこない。だが、油断はできない。







スポンサーサイト

日記    Comment(1)   TrackBack(0)   Top↑

Comment
すばらしい Posted by 2D
「家の前に野糞された」という事態を、ここまでドラスティックに描けるのは氏の屈強な被害妄想の為せる業。
次回は「食う」という大胆な選択肢を期待します。

>「出てこい! いい度胸だ、ぶっ殺してやる!」
プレデターにぶっ殺される息巻いた軍人みたいで◎。
2010.03.07 Sun 08:19 URL [ Edit ]

管理者にだけ表示を許可する

Top↑

TrackBack
TrackBackURL
http://porkpie.blog10.fc2.com/tb.php/138-c4071a6e

Top↑

  1. 無料アクセス解析
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。