作家、演出家、前川知大の鈍ら(ナマクラ)な日々。時々切れ味の良い日も。かなり不定期更新。
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前川知大          (まえかわともひろ)

  • Author:前川知大          (まえかわともひろ)
  • 海の生き物とキノコと豆、乾物が好きです。F1と料理が好きです。UMAや地獄の関係者も好きです。漬物だけは勘弁してください。
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2011.05.07 Sat
これからはインターネットだ。
私がインターネットを始めたは97年だから、割と早い方だといえる。多くの人が興味を持ち始めた時期で、95年の流行語には「ネット」がランクインしている。
今言うとジョークにしかならないが、「これからはインターネットだ!」とやたら言われたのを覚えている。

では、と
「パソコンを買おうと思うが、良いものはあるかね? ちなみに金はない」
大学の同じ学部で、たまたま近所に住んでいた友人がパソコン好きだったので聞いてみた。
「家電メーカーのは高いから、自作が一番だ。後々カスタマイズもできるしな」
当時、大手家電メーカーのパソコンはエントリーモデルでも20~30万と、結構な値段がした。
秋葉原でパーツを買ってきて自作すれば10万以内に収まると言うが、まったくの素人が自作なんて無理だ。

「ではアキバとかにある自作専門ショップのオリジナルにしろ。同じスペックで、メーカー品の半額ほどで買える」
なるほど、それなら良さそうだ。
友人は早速数枚の広告を持ってきたが、その広告がなんか怪しい。

「なんか……裏ビデオのチラシみたいだ」
「裏ビデオのチラシと一緒にポストに入っていたチラシだ」
「え、マジで。そんなんでいいの? 信用できるのこの会社?」

昔はよく裏ビデオ通販のチラシがポストに入っていたのだ(ちなみに収集していた)。白黒印刷のかすれた感じやデザインの雑さでは、そのPCショップのチラシも似たようなものだった。

「心配するな。ショップはパーツを組み立てるだけで、マザーボードやCPU、メモリーなんかはホラ、メーカーが書いてあるだろ、出所が分かってるんだし問題ない。本体ケースも格好良くはないが、シンプルということもできる」
「でも組み立てる技術とか……」
「職人の世界じゃない。組み立てなんて知識さえあれば誰でもできるんだよ」
「え、じゃあ君できないの?」
「できん」
「知識ないの?」
「多少はあるが、体質的に静電気が強いので、向いてない」
「へぇ~」
「今アキバにはこの手のショップが乱立している。競争原理が働いているからクオリティは悪くないはずだ。それにこういう一見地味なショップの方が、意外といい仕事をするものだ」

そんな、地方のラーメン屋みたいな法則が当てはまるのか、と謎だったが、普通なら20万以上するスペックが8万という価格に引かれ、その店に行ってみることにした。

秋葉原の雑居ビルの一室、六畳くらいの狭い店だった。バラ売りPCパーツの山に埋もれるように受付カウンターがあった。店員は若く学生のようで、ここがPC同好会の部室といわれたらそう思っただろう。
「あのぉ、ください」

パーツの一つ一つを自分で選択できるのが、自作専門店のオリジナルPCの魅力らしい。でもAMDとインテル、どっちのCPUがいいかなんて私には分からない。各パーツに2、3の選択肢があるが、相性というのがあって、リストにある最高級のものを組み合わせても、それが最高のPCになるとは限らない。らしい。
スター選手を11人集めても、最強のサッカーチームにはならんのと同じことか。なんとなく分かる。分かるが、なおさら判断できん。
というわけで、店員さんにお任せした。

「予算10万で、具合の良いのを見繕ってくれたまえ」
注文した。納品は3週間後だ。

自宅に戻り、近所の友人にPCの構成表を見せる。
「ふむふむ。マザボは○○か、メモリーは、へぇ~、なるほど……これでえぇと、9万弱、うむ、中々いい買物をしたな」
「分かるのか?」
「だいたいな」
「……」
「ところでプロバイダーは決めたか?」
「いや」
「紹介しよう。俺も使っているが悪くない。ネットに繋げなきゃただの箱だ。直ぐにエロゲー専用マシンになる」
「エ、エロゲー?」
「貸してやる。あれはいいものだ」

ちょっと遅れて一月後、私の住む木造アパートにPCがやってきた。さっそく友人に電話する。
「来た! ヤツが来た!」
「ギャー、見たい! 今すぐ行く!」

友人に教えてもらいながら、PCにモニター、キーボード、マウスを繋ぐ。こういうのは自分でやらないと駄目なのだ。人にやってもらうと後々の愛着に影響する。
さて、色んな設定をしなくちゃいけないが、各パーツやソフトの説明書はほとんど英語で理解できないし、ショップのマニュアルがとにかく不親切。明らかに素人は対象にしていない。windows95の画面が出るまで3時間くらい格闘。ヘトヘトだ。

「うぅ、やっぱ俺にはちょっとキツいか、東芝やソニーにすれば良かった」
「負けるな。暴れ馬は最初は辛いが、乗りこなせば優勝だ。とりあえず今日はエロゲーでもして寝るんだな」
そう言って友人はCDロムを数枚置いて帰った。頼りになる男である。

ちょきんちょきん、がー、ぴー、べこんべこん……

と、数日後、なんとかネットも繋がり、やっとこさ私も電脳世界に参入である。
「やったー」
最初にしたことは、エロい画像を検索、そして例の友人へメール、である。
本質的には普段していることと変わらないが、方法が違うとこうも官能的か。これが新しい技術の楽しみだなぁと思う。
大学にも行かず、PCに向かう。
回線がとにかく遅いので、情報を消費する時間より待ち時間の方が多い。ダウンロードの時間を有効利用するため、ガンプラを作りながらネットサーフィンだ。なんて楽しいんだろう、インターネット。時間がどんどん過ぎる。

「どうだね。PCの具合は? 満足しているか?」
と友人が数週間後に。
「それが、最近ちょっと不安定なんだよ。来て見てくれよ」
フリーズしたり、勝手に落ちたり再起動することが増えてきたのだ。
「それに君が紹介してくれたプロバイダーだけど、最近繋がらないこと多くないかい?」
「うむ。安さゆえに加入者が急増して、サーバーの増設が間に合ってないらしい。でもあのプロバイダーを選んだ俺は先見の明があると思わんか?」
「それは分かったけど、参ったよ」

それからまた数週間、私のPCはますます不安定になった。起動しない日もあった。

「ところで前川君、名前を付けているか? ……なにってPCにだよ。だって君、バイクには名前を付けているじゃないか。PCだって同じだよ、相棒なんだ。名前を付けてあげないから、きっと怒っているんだよ彼女は」
「そうか……え、彼女? ちょっとやめてよ、勝手に性別決めないでくれる」

そんな魔術的な思考でPCが良くなるはずはないのだが、確かに調子の悪い時のバイクには、語りかけたりしてしまう。
故障の原因は愛情不足。確かに当時はアダルトチルドレンとかが流行っていたけど。

買ったショップは、アフターサービスが悪かった。電話で何度か対策を聞いたが、正直よく分からない。最終的にはマザーボードと何かの相性に問題があるのでは、ということだった。
えー、それが自分で判断できないからお店に頼んだんじゃないか。
「マザーボード変えるとなると、修理費込みで5万くらいかかりますね」
「ええっ、そんなぁ」

私はひどいひどいと友人に訴えた。
「まぁ自作PCってのはそういうリスクはあるよね。これはしょうがない。授業料と思って諦めるんだな」
私は別に自作PCのプロを目指しているわけではないし、授業なんて受けたくない。
「お、お前があんな、裏ビデオみたいなチラシ持ってくるからだ! うわーん!」
と私は泣きながら家を飛び出した。

ネットの世界に帰りたい。でも帰れない。PCが立ち上がらないから。
あ、起動した! おおお、windowsのロゴも出た、と思ったら勝手に再起動。そしてその繰り返し、起動しては再起動の無限ループ。
暴走だ。精神を病んでいる。私の愛情が足りなかったのか。

私はショップと交渉した。
さすがにそちらの落ち度もあるだろう。なんとか安く修理してくれないか。
ショップは対処方のマニュアルやCDロムを送ると言い、それでも駄目なら修理する、ということになった。マザーボードを変えるというのは極端な話で、原因を特定すればもう少し安く直せるらしい。

一週間ほど様子をみていた。
完全に初期化して、一応起動するようになっていたが、やはり不安定さは残る。
結局修理か。データを全て失ってまで初期化したのだがな。

そんな時、例の友人から電話が来た。
「テレビを見るんだ! 大変なことが!」
夕方のニュースでやっていたのは、地下鉄サリン事件(95年)を起こしたオウム真理教関連のニュースだった。

「教団の資金源となるパソコン店に強制捜査」

私が買った店だった。

友人、大爆笑である。
「ふふふ、サポートを求めたつもりが、サポートをしていたとはな、それもオウムの」
私は電話を切った。

母さんごめんなさい。金を借りてまで買ったパソコンでしたが、愚かな買い物でした。
そのショップに、もう電話は繋がらない。

後日、大学で友人が嬉しそうに、
「前川君のパソコン、オウムのだったんだって、かわいそうだよね」
と言っていた。
なかなかの男である。彼とは今も非常に仲がよい。

さて、問題のPCだが、自作PCが趣味の人を紹介してもらい、ビデオカードというのを交換したり、何やら色々してもらって、何とか復活した。修理費もパーツ代とわずかな謝礼だけでやってもらえ、非常に助かった。
普通にPCが使えることがこんなに嬉しいとは。二ヶ月ぶりにネットに繋がった。

それから数日後、妹の家に行く機会があった。
いきなり富士通のパソコン、FMVが目に入る。
こ、これは、眩しすぎる。
「どうしたのこれ?」
「なんか学校で買えっていうから」
「ちょっといじっていい?」

嗚呼、なんという安心感。
FMVのこの取っ付き易さと安心感が明るいファミリーレストランなら、私のマシンはまるで薄暗いぼったくりバーである。
妹よ、あの時の私の気持ちがお前に分かるか?

テーブルの上には雑誌の付録のようなシールシートが散らばっていた。何となしに手にとって見ていると、妹が言った。
「いる? キャンディキャンディのシール」
大小のシールに各キャラクターが収まっている。
「うん。じゃあもらう」
別にキャンディキャンディが好きなわけじゃなかったが、そこはかとなく悲しかったので、そうした。

私は家に帰り、自分のPCを見つめた。
クリーム色のタワー型の本体には、今は無きショップのエンブレムがはめ込まれている。その切手くらいの大きさのエンブレムが忌々しい。
私はキャンディキャンディのシールを一枚はがし、エンブレムの上に貼った。ぴったりだった。
シールの下には小さく「イライザ」と書いてある。へぇ、この女の子はイライザっていうのか。
名前か……
そうだ、このPCをイライザと名付けよう。
イライザ。いいじゃないか。イライザ。あ、やっぱり女の子なんだ。名前を付けたらなんだかこのPCを愛せそうな気がしてきたぞ。

「いくぞ、イライザ!」電源オン。

……かちかちかち、じー、ちきちきちき、ととと、ぶーん、……がちょんがちょん、ぴー……

やっぱりどこか不安定。でも大丈夫。イライザ頑張れ。

ふと思い立って妹に電話した。
「イライザって、どんなキャラなの?」
「すっごい意地悪」
……なんだ、ぴったりじゃないか。
「ありがとう」
そう言って電話を切った。

それから私は、気分屋でわがままなイライザを好きになったのだった。

つづく。

ちなみに今使っている三代目イライザの性格はとっても温厚、忍耐強い。10年経つと変わるもんだ。







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