作家、演出家、前川知大の鈍ら(ナマクラ)な日々。時々切れ味の良い日も。かなり不定期更新。
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前川知大          (まえかわともひろ)

  • Author:前川知大          (まえかわともひろ)
  • 海の生き物とキノコと豆、乾物が好きです。F1と料理が好きです。UMAや地獄の関係者も好きです。漬物だけは勘弁してください。
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2013.01.15 Tue
鱈の煮付け
新潟でのこと。
市場で新鮮な鱈を買った。
骨ごと輪切りにして、腹子も白子も肝もまとめてパックにぎゅうぎゅうに詰めてくれた。
そのまま煮付けにできる。
実家にいた頃、旬には必ず鱈の煮付けが食卓にあがったものだ。あれは美味い。
「煮てくれたまえ」と私は母に鱈を渡した。
生の鱈の煮付けには、水を一滴も使わない。合わせた調味料だけで火にかけると、鱈の水分が出て煮えるのだという。母は慣れた手つきで鱈を鍋に並べながら言った。
なるほど、それであのように身が締まり味のしみた煮付けになるのかと納得した。
親も歳をとる。幼い頃から食べたなれた家庭の味を、今のうちに収集しておかねばと、このような時によく思う。

食事の時間だ。
私は期待とともに鍋の蓋をあけ、自ら鱈を器にもる。
優しく扱わないと身の柔らかい鱈はホロホロと崩れてしまう。
む、やや鍋底にくっついてしまっているな。
「お玉なんかでやるからだ、ヘラを使え」と母。
確かにそうだが、煮汁も入れたかったのだ。がしかし、煮汁がどうやら少ないようだ。鍋底にくっついていることと無関係ではないだろう。
食べた。
少し味がうすいような気がする。まぁ、薄味の方が体にはやさしい。「上品な味だな」と言語化することで、肯定的に印象操作した。
器の下にわずかに溜まる煮汁に身をくぐらせ、口に運んだ。
そして直径3センチはある大きな腹子。贅沢ではないか。
箸で割るか、それともかぶりつくか。もちろん後者だ。
かじった。鼻先に現れた腹子の断面、ん、色が不穏だ。
密度の高い卵塊は火が入りにくい、私も経験がある。
冷凍カレイ(卵つき)を凍ったまま煮る時にありがちなミスだ。

「卵に火が入っていないようだ」
「あら、そうかい、それは悪かったね」

私は、底が焦げ付いたうえ煮汁の少ない鍋に戻して火にかけることは得策でないと判断し、レンジで火入れすることを選択。
パンパン、ボン!とレンジの中で銃を乱射するような音が響く。卵がはじけているのだ。もういいだろう。
火は入った。
入った。だがどうしても、気づいてはいたが、鱈の、生の鱈独特の臭いが残っている。
はっきり言おう。生煮えだ。
上品な味だと? 違う。煮汁が回っていないのだ。
体にやさしいどころか、お腹を壊してしまうかもしれないのだ。
煮汁が少ないから上層に火が入らず味も染みない、下層は焦げ付く。
なぜこんなこんなことが起きた。
これは、失敗だ!
「うわあああああ!美味しい鱈の煮付けが食べたかったのに!」

と雪積もる庭にかけ出して、のたうち回りたい、がそんなことはしない。
母が可哀想だし、風邪をひいてしまう可能性があるからだ。そんなことをしたら、妹や姪、私の家族も同席しているこの食卓が、メチャクチャになってしまう。

「母よ……やはり部分的にだが、火が入っていないようだ」
と私は恐ろしい事実を、さも些細なことのように告げた。
レンジで試した結果から、これは今この場でリカバーできる問題とは思えない。
「……そうだね、食べるのやめな」
と母はさして気にする様子もなく、言った。

メインの喪失。
食卓を預かった者にとって、これ以上の惨事があろうか。
私は怯えた。大変なことになるぞ。
しかし
「まぁ他におかずもあるし、ね」「そうそう」
と食卓の空気は簡単にリカバーされた。
母は細かいことを気にしない性格なのだ。

食後、私は鍋を確認した。
よく見ると蓋が合っていない。壊れたので、違う鍋の蓋を使ったそうだ。
そもそも鍋自体が大きく、余白に蒸気がたまりにくい。更に蓋が密閉できないので、蒸気が逃げる。上層の温度が上がらず、煮汁も対流しない。底だけが焦げる。
私はこのことを母に説明した。
手順は間違ってなかった。問題は鍋だ。

「駄目だな、あの鍋は」
「うん、駄目だあの鍋は」
「もう二度とあの鍋を使わないほうがいいよ、とんでもない鍋だ」
「えらい目にあった。あの鍋め」
「蓋が無いなんて、どうかしてるよ」
「ああもう二度と使わない。使ったとしても、麺を茹でる時くらいさ」

本当のところ、母はとても傷ついていたのだ。
子供のリクエストに答えられなかったこと、新鮮な魚を台無しにしたことを。
(蓋の選択というミスはあったが)原因が鍋と分かり、母も気を取りなおした。
違う鍋に移して、煮汁を足して煮直そうとしたが、予想以上に底にくっついている。どうしても身が崩れてしまうのだ。
忌ま忌ましい鍋め。

母の選択。
鍋ごと捨てた。

「実のところ、そうとうムカついていたようだね」
と母に言うと、
「あぁもう、アッタマきた!」
と吠えた。




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