作家、演出家、前川知大の鈍ら(ナマクラ)な日々。時々切れ味の良い日も。かなり不定期更新。
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[小説] 「散歩する侵略者」 メディアファクトリーより発売中 [連載] ■週刊モーニング(不定期連載) 「リヴィングストン」 漫画:片岡人生 原作:前川知大
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前川知大          (まえかわともひろ)

  • Author:前川知大          (まえかわともひろ)
  • 海の生き物とキノコと豆、乾物が好きです。F1と料理が好きです。UMAや地獄の関係者も好きです。漬物だけは勘弁してください。
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2006.11.18 Sat
リンゴの思うつぼ
apple.jpg

私は、リンゴの蜜がどれほどのものか、と思っている節がある。
赤いリンゴを開く度、蜜の入り具合に驚喜するなんて。どうでもいい!
実際蜜が入っていた方が美味しいのは知っているのだが、なぜかそれは取るに足らないことだという思いがあるのは、子供時代の記憶が関係している。

子供は好物以外はそれが何であるか、特に認識して食べてはいない場合が多い。
以前友人にカブの料理を出したら、「コレは何か?」と聞かれカブと答えると、初めて食べたと言う。いくらなんでもそれは無いだろうと思ったが、カブというインパクトに欠ける食材は彼の記憶に残らなかったのだろう。
母親の出す食事にいちいちコメントを付けるほど子供はグルメじゃないし、そんな気遣いは家庭の食卓には必要ない。
食卓に上がったカブに興味が沸かなかったなら、それは名前も無い「野菜」として舌も意識もスルーしていくしかない。
食事を作った私に対する気遣いから、彼にとって興味の無いその野菜に言及してみただけで、結果それは彼にとってカブとの始めての出会いになったわけである。彼は初めてカブをカブとして食べたのである。
大人になっても特に食に興味の無い人は、自分が今何を食べているかに関心を示さない人は私の周りにもいる。それを悪いことだと言うつもりはないし、本人も食事はただの燃料補給に過ぎないと公言されると、それはそれで気持ちがいい。ヘタにグルメを気取られるよりよっぽどマシだ。

リンゴに話を戻すと、私がリンゴの蜜を意識したのは小学生の時と思われる。
私の母は食後に必ず果物を出す主義で、それは彼女の健康思想に基づいていた。「朝の果物は金」という言葉が好きらしく、呪文のように連呼していたのを覚えている。

ある日母は居間に、皿の上にリンゴとナイフを乗せて現れた。
私は興味なさげにテレビを見ていると、背後で母が驚喜の声をあげる。傍らにいた祖母も「こりゃ見事だ」などと言っている。
私も気になり会話に参加すると、彼女らはリンゴの蜜の多さに感動しているらしかった。

「蜜とは何か?」と聞くと、それが種の周りに走るレモン色の透明なすじであることを教えてくれた。
確かにきれいだ。いかにも蜜らしい色をしている。私はそのリンゴに淡い期待を抱いた。

このリンゴは私に本当のリンゴの美味しさを教えてくれるのではないか。
母たちの喜びようは、それを保証してくれるように思えたし、そのリンゴが「レア」であることを指し示していた。
すっかり母たちのテンションに巻き込まれた私は、必要以上に期待を膨らまし、リンゴをほお張った。
しかしそのリンゴは特に変わったところはなく、普段通りのリンゴでしかなかった。蜜はどこに行った?
軽い落胆が私を襲った。母たちは美味しい美味しいと舌鼓を打つ。私は「蜜」は単なるビジュアルインパクトに過ぎず、彼女らは騙されていると感じた。目に見える「蜜」は、必ずしもそのリンゴを美味しさを約束するものじゃないと思った。
私は「蜜入=美味しい」という考えに支配され、そのリンゴを過大評価する彼女らを激しく叱責しその場を後にした。「いとも簡単に騙されやがって!リンゴの思うつぼじゃないか!」

今思うと、私はそれまで何回もリンゴを食べてきたはずである。
しかしリンゴは特にひいきにしている果物ではなく、漫然と食べ続けてきただけで、その時までに食べてきたリンゴにも蜜は入っていただろう。ひょっとしたら私は、既にかなりレベルの高いリンゴを食べてきたのかも知れない。そのくせリンゴへの評価が低いのは、単に私はリンゴがそれ程好きではないということなのかも知れない。
とにかく、私が「蜜」を意識し、「蜜」と初めて出会ったのはその時ということになり、今までも食べていたと思われる「蜜」に必要以上に大きな期待を抱いたのは、「蜜」にとっては分の悪い勝負だったに違いない。

今では蜜の入ったリンゴは、そうではないリンゴよりも美味しいと思う。
でも必要以上に蜜に反応する人を見ると、なぜか萎える。
それは私が始めて蜜と出会った時の印象が、感情的に残っているからだろう。


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